University of Minnesota Human Rights Center

第三部 刑法の一般原則

第二二条(「法律なければ刑罰なし」)

1 人は、問題の行為がその発生の時点において裁判所の管轄に属する犯罪を構成しない限り、この規程の下で刑事責任を負わない。

2 犯罪の定義は厳格に解されなければならず、類推によって拡大されてはならない。曖昧な場合には、定義は、捜査され、訴追され又は有罪の判決を受ける者に有利に解釈されなければならない。

3 本条は、この規程とは別に、いずれかの行為が国際法上の犯罪と性質決定されることに影響を及ぼすものではない。

第二三条(「法律なければ刑罰なし」) 

 裁判所によって有罪の判決を受けた者は、この規程に従ってのみ処罰することができる。

第二四条(人に関する不遡及効)

1 何人も、この規程が発効する前の行為について、この規程の下で刑事責任を負わない。

2 確定判決の前に特定の事件に適用される法に変更があった場合には、捜査され、訴追され又は有罪の判決を受ける者に一層有利な法を適用しなければならない。

第二五条(個人の刑事責任)

1 裁判所は、この規程に従って、自然人に対して管轄権を有する。

2 裁判所の管轄権に属する犯罪を行った者は、この規程に従って、個人として責任を負い、刑罰を科される。

3 人は、次に該当する場合には、この規程に従って、裁判所の管轄に属する犯罪について刑事責任を負い、刑罰を科される。

(a) 個人として、他者と共同して、又は他者を通じて、当該犯罪を行う場合(当該他者が刑事責任を負うか否かに関わらない。)

(b) 既遂又は未遂に終った当該犯罪の実行を命令し、教唆し又は誘導する場合

(c) 当該犯罪の実行を容易にするために、その実行又は未遂に終った実行を幇助し、教唆し、又はその他の方法(実行手段の提供を含む。)で援助する場合

(d) 共通の目的で行動する者達の集団による犯罪の実行又は未遂に終った行為に、他のいずれかの方法によって寄与した場合。そのような寄与は故意に行われたものであり、かつ、次のいずれかに該当しなければならない。

(ⅰ) 当該集団の犯罪活動又は犯罪目的が裁判所の管轄に属する犯罪の実行を伴う場合には、そうした活動又は目的を助長する目的で行われること、又は、

(ⅱ) 当該集団の犯罪実行の意図を知りながら、行われること。

(e) 集団殺害犯罪については、集団殺害を実行するよう他者を直接かつ公然と扇動する場合

(f) 実質的な手段によって犯罪の実行に着手する行動を起こして当該犯罪の実行を試みたが、その者の意図とは無関係な事情のために犯罪が発生しなかった場合。但し、犯罪を行う試みを放棄する者、又はそれ以外の方法で犯罪の完成を防止した者は、その者が完全かつ自発的に犯行の意図を放棄した場合には、当該犯罪の未遂について、この規程の下で刑罰を科されない。

4 個人の刑事責任に関するこの規程のいかなる規定も、国際法上の国家の責任に影響を及ぼすものではない。

第二六条(一八歳未満の者に対する管轄権の排除) 

 裁判所は、申立てられた犯罪実行の時に、一八歳未満であった者に対しては管轄権を有しない。

第二七条(公的地位の無関係性)

1 この規程は、公的地位に基づくいかなる区別もなく、すべての者に平等に適用される。特に、国家元首又は政府の首長、政府又は議令の構成員、及び選挙された代表者又は、公務員としての公的地位は、いかなる場合にも、この規程に基づく刑事責任からその者を免除せず、かつ、それだけでは減刑事由を構成しない。

2 国内法条または国際法上に関わらず、人の公的地位に付随する免除又は特別な手続規則は、裁判所がその者に対して管轄権を行使することを妨げない。

第二八条(指揮官その他の上官の責任) 

 裁判所の管轄に属する犯罪について、この規程に基づく他の刑事責任事由のほか、

(a) 軍指揮官又は実質的に軍指揮官として行動している者は、その者の実質的な命令若しくは支配、又は場合により実効的な権威若しくは支配の下にある軍隊が、当該軍隊に対してその者が適切に支配を行わなかった結果、裁判所の管轄に属する犯罪を行ったときは、次の場合に刑事責任を負う。

(ⅰ) その軍指揮官又はその者が、軍隊が犯罪を行っているか又は行おうとしていることを知っていたか、又は当時の状況に照らして知るべきであった場合、及び

(ⅱ) その軍指揮官又はその者が、犯行を防止し若しくは抑圧するために、又は捜査若しくは訴追のためにその問題を権限ある当局に付託するために、自己の権限内にあるすべての必要かつ合理的な措置を取らなかった場合

(b) (a)の規定に記述されていない上下関係については、上官の実効的な権威又は支配の下にある部下が、当該部下に対して上官が適切に支配を行わなかった結果、裁判所の管轄に属する犯罪を行ったときは、次の場合に、当該上官は刑事責任を負う。

(ⅰ) 上官が、部下が犯罪を行っているか若しくは行おうとしていることを知っていたか、又はそれを明白に示す情報を意識的に無視した場合

(ⅱ) 犯罪が、上官の実効的な責任及び支配の範囲内にある活動に関係していた場合、及び

(ⅲ) 上官が、犯行を防止し若しくは抑圧するために、又は捜査若しくは訴追のために権限ある当局へ付託するために、自己の権限内にあるすべての必要かつ合理的な措置を取らなかった場合

第二九条(時効の不適用) 

 
裁判所の管轄に属する犯罪は、時効にかからない。

第三〇条(主観的要素)

1 別段の定めがある場合を除き、構成要素が意図と認識を伴って行われた場合に限り、人は、裁判所の管轄に属する犯罪について刑事責任を負い、刑罰を科される。

2 本条の適用上、人は、次の場合に意図を有する。

(a) 行為との関係において、その者が当該行為に着手するつもりである場合

(b) 結果との関係において、その者が当該結果を生じさせるつもりであるか、又は当該結果が自然の成り行きで生じることに気づいている場合

3 本条の適用上「認識」とは、ある状況が存在すること又はある結果が自然の成り行きで生じることを意味する。「知る」及び「知りながら」は、これに従って解釈されなければならない。

第三一条(刑事責任の阻却事由)

1 この規程に定める刑事責任の他の阻却事由のほか、日地は、その者の行為の時に、次に該当する場合には刑事責任を負わない。

(a) その者が、自己の行為の不法性若しくは性質を評価する能力、又は法の要求に従うように自己の行動を制御する能力を破壊する、精神疾患または精神欠如を患っている場合

(b) その者が、自己の行為の不法性若しくは性質を評価する能力、又は法の要求に従うように自己の行動を制御する能力を破壊する酩酊状態にある場合。但し、酩酊の結果、裁判所の管轄に属する犯罪を構成する行為を実行するおそれがあることをを知り、又はその危険性を無視した状況下において、自ら酩酊状態に陥った場合を除く。

(c) その者が自己若しくは他人、又は戦争犯罪の場合には、自己若しくは他人の生存に不可欠な財産若しくは軍事行動の遂行に不可欠な財産を、自己若しくは他人又は保護される者に対する危険の程度に比例する様態で、急迫かつ不正な武力行使から保護するために合理的に行動する場合。但し、その者が軍隊による防御的行動に関与していた事実は、それだけでは、本項の下で刑事責任阻却事由を構成しない。

(d) 裁判所の管轄に属する犯罪を構成すると申立てられた行為が、その者若しくは他人に対する切迫した死の脅威、又は継続的な若しくは切迫した重大な心身障害の脅威から生じた強迫によってもたらされた場合である、かつその者が、その脅威を回避するために当然かつ合理的に行動する場合。但し、その者が回避しようとしている損害よりも大きな損害をもたらすことを意図していないことを条件とする。そのような脅威は次のいずれかでありうる。

(ⅰ) 他者によって行われたもの、又は

(ⅱ) その者の支配を超える他の事情によって構成されるもの

2 裁判所は、付託された事件に、この規程に定める刑事責任の阻却事由が適用できる否かを決定する。

3 公判において、裁判所は、1に規定するもの以外の刑事責任の阻却事由についても、そのような事由が第二一条に規定された適用法規に由来する場合には、審理することができる。そのような事由の審理に関する手続は、手続及び証拠に関する規則に規定されなければならない。

第三二条(事実の錯誤又は法の錯誤)1 事実の錯誤は、犯罪に必要とされる主観的要素を否定する場合に限り、刑事責任の阻却事由となる。

2 特定の種類の行為が裁判所の管轄に属する犯罪であるか否かについての法の錯誤は、刑事責任の阻却事由にならない。但し、法の錯誤は、そのような犯罪に必要とされる主観的要素を否定する場合、または第三三条で規定される場合に限り、刑事責任阻却事由とすることができる。

第三三条(上官の命令及び法の命令)

1 裁判所の管轄に属する犯罪が、政府の命令又は上官(軍人又は文民を問わない。)の命令に従った者によって行われたという事実は、次の場合を除き、その者の刑事責任を免除しない。

(a) その者が、政府又は当該上官の命令に従うべき法的義務を負っていた場合

(b) その者が、その命令が不法であることを知らなかった場合

(c) その命令が明かに不法でなかった場合

2 本条の適用上、集団殺害犯罪又は人道に対する犯罪を行えという命令は、明かに不法である


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