University of Minnesota Human Rights Center

第二部 管轄権 、許容性及び適用法

(裁判所の管轄に属する犯罪)

1 裁判所の管轄は、国際社令全体の関心事である最も重大な犯罪に限られる。裁判所は、この規程に従って、次の犯罪について管轄権を有する。

(a)         集団殺害犯罪

(b)         人道に対する犯罪

(c)         戦争犯罪

(d)         侵略の犯罪

2 裁判所は、侵略の犯罪については、第121条及び第123条に従って、当該犯罪を定義し、かつ当該犯罪に対して裁判所が管轄権を行使する条件を定める規定が採択された後に管轄権を行使する。そのような規定は、国際連合䲚章の関連する規定と両立するものでなければならない。

(集団殺害)

 
この規程の適用上、「集団殺害」とは、国民的、民族的、人種的または宗教的な集団の全部または一部を破壊する意図をもって行われる次のいずれかの行為をいう。

(a)         集団の構成員を殺すこと。

(b)         集団の構成員の身体または精神又は精神に重大な危害を加えること。

(c)         集団の全部又は一部の身体を破壊することを目的とする生活条件を当該集団に意図的に課すこと。

(d)         集団内における出生を妨げることを意図する措置を課すこと。

(e)         集団の児童を他の集団に強制的に移送すること。

第七条(人道に対する罪)

1 この規程の適用上、「人道に対する犯罪」とは、文民たる住人に対する広範な又は組織的な攻撃の一部として、当該攻撃の認識とともに行われた次のいずれかの行為をいう。

(a)  殺人

(b)  殲滅

(c)  奴隷の状態に置くこと。

(d)  住民の追放又は強制移送

(e)  国際法の基本的な規則に反する拘禁又はその他の身体的自由の重大な剥奪

(f)  拷問

(g)  強姦、性的奴隷、強制売いん、強制妊娠、強制不妊、又は類似の重大性有するその他の形態での性的暴力

(h)  この項に規定されたいずれかの行為又は裁判所の管轄に属するいずれかの犯罪に関連して、政治的、人種的、国民的、民族的、文化的、宗教的、3の規定に定義されたジェンダーの理由又は国際法上許容されないと普遍的にみなされているその他の理由に基づく特定の集団又は団体に対する迫害。

(i)  人の強制失踪

(j)  アパルトヘイト犯罪

(k)  身体又は精神的若しくは肉体的健康に対して故意に重い苦痛をまたは与えた重大な傷害をもたらす類似の性格のその他の非人道的行為

2 1の規定の適用上、

(a)  「文民たる住民の攻撃」とは、そのような攻撃を行う国家若しくは組織の政策に従って、又はそのような政策の助成の下に、いずれかの文民たる住民に対して行われる、1に規定された行為の多様な実行を伴う一連の行為をいう。

(b) 「殲滅」とは、住民の一部の破壊をもたらすことを意図した生活条件(特に、食糧及び医薬品を入手できないようにすること)を故意に課すこと。

(c)  「奴隷の状態に置くこと」とは、人に対する所有権に付随するいずれかの又はすべての権限を行使することをいい、人身売買(特に女性及び児童の売買)の過程で当該権限を行使することを含む。

(e) 「住民の追放又は強制送還」とは、国際法上許容される理由なしに、排除又はその他の強制行為により、人が合法的に存在する地域からその者を強制的に退去されることをいう。

(f) 「拷問」とは、拘束されている者又は被告人の支配下にある者に対し、肉体的であるか精神的であるかを問わず、激しい苦痛又は苦悩を故意に加えることをいう。但し、拷問には、合法的な制裁からのみ生じ、それに固有の若しくはそれに付随する苦痛もしくは苦悩は含まない。

(g)  「強制妊娠」とは、いずれかの住民の民族組成に影響を与えること又はその他の国際法上の重大な違反を行うことを意図して、強制的に妊娠させられた女性を不法に出産させることをいう。この定義は、妊娠に関する国内法に影響を与えるものと決して解釈してはならない。

(h)  「迫害」とは、集団又は団体の同一性を理由とした、国際法に反する基本的権利の意図的かつ過酷な剥奪をいう。

(i) 「アパルトヘイト犯罪」とは、1の人種集団による他の1又は複数の人種集団に対する組織的な抑圧及び支配の制度化された体制の中で行われ、かつ当該体制の維持を意図して行われる、1の規定に定めるものに類似の性格を有する非人道的行為をいう。

(j) 「人の強制失踪」とは、国家若しくは政治的組織により、又はそれらの承認、支援若しくは黙認を得て

第8条(戦争犯罪)

1 裁判所は、特に計画若しくは政策の一部として、又は戦争犯罪の大規模な実行の一部として行われた場合に、戦争犯罪について管轄権を有する。

2 この規程の適用上、「戦争犯罪」とは次のものをいう。

(a) 1949年8月12日のジュネーヴ諸条約の重大な違反行為、すなわち、関連するジュネーヴ条約の規定に基づいて保護される人又は物に対する次のいずれかの行為

(i) 殺人

(ii) 拷問又は非人道的待遇(生物学的実験を含む)

(iii) 身体又は健康に対して故意に重い苦痛又は重大な傷害を加えること。

(iv) 軍事上の責任のよって正当化されない不法かつ恣意的な財産の広範な破壊又は徴発

(v) 捕虜又は他の被保護者を強制して敵国の軍隊で服務させること。

(vi) 捕虜又は他の被保護者から公正な正式の裁判を受ける権利を奪うこと。

(vii) 不法に追放し、移送し又は拘禁すること。

(vii) 人質をとること。

(b) 確立した国際法の枠内で国際的武力紛争において適用できる法規及び慣例の他の重大な違反、すなわち、次のいずれかの行為

(i) 文民たる住民全体又は敵対行為に直接参加していない個々の文民を故意に狙った攻撃

(ii) 民用物、すなわち軍事目標でないものを故意に狙った攻撃

(iii) 人道的支援又は国際連合憲章に基づく平和維持活動に携わる要員、施設、資材、装置若しくは車両(武力紛争に関する国際法に基づいて文民又は民用物に与えられる保護を受ける権利を有するものに限る。)を故意に狙った攻撃

(vi) 予期される具体的かつ直接的な全体としての軍事的利益との比較において、明らかに過度に、巻き添えによる文民の死亡、文民の傷害、民用物の損傷、又は自然環境への広範な、長期的なかつ深刻な損害が発生することを知りながら故意に攻撃すること。

(v)  手段のいかんを問わず、無防備でかつ軍事目標でない町村、住宅又は建物を攻撃し又は砲爆撃すること。

(vi) 武器を放棄し又はもはや防護手段を持たず、自らの意思により投降した戦闘員を殺傷すること。

(vii) 休戦旗、敵国又は国際連合の旗若しくは階級章 及び制服、並びにジュネーヴ諸条約の特殊標章を不正に使用し、結果的に死亡又は重大な人身障害をもたらすこと。

(viii) 占領国が、自国の文民たる住民の一部を占領地域に直接若しくは間接的に移送すること又は占領地域の住民の全部若しくは一部を占領地域の中において若しくは外へ追放又は移送すること。

(ix) 宗教、教育、芸術、学術若しくは慈善目的に供される建物、歴史上の記念的建造物、病院及び傷病者の収容所(軍事目標ではないものに限る。)を故意に狙った攻撃

(x)  敵国の権力内にある者の身体を切断にさらすこと、又は医学、歯学若しくは医療上の処置によって正当化されず、その者のためになる形で行われないもので、死亡をもたらし若しくは健康を著しく危うくする種類の医学的若しくは科学的実験にさらすこと。

(xi) 敵国又は敵の軍隊に属する個人を背信的に殺傷すること。

(x ii) 助命を許さないことを宣言すること。

(x iii)  戦争の必要上やむを得ない場合を除き、敵の財産を破壊し又は押収すること。

(x iv)  敵国の国民の権利及び訴権の消滅、停止又は裁判情受理不許容を宣言すること。

(x v)  敵国の国民を強制してその本国に対する作戦に参加させること(その者が戦争開始前に交戦国の役務に服していた場合を含む。)

(x vi)  町又は地域を略奪すること(突撃によって攻取した場合を含む)

(x vii)  毒又は毒を施した兵器を用いること。

(x viii)  窒息性ガス、毒性ガス又はこれらに類するガス及びこれらと類似のすべての液体、物質又は考案を用いること。

(x ix)  外包が硬い弾丸であって、その外包が中心をすべて蓋包しておらず、若しくはその外包に切り込みを施してある弾丸のように人体内に入り容易に展開し又は扁平となる弾丸を用いること。

(x x)  その性質上過度の傷害若しくは不必要な苦痛を与え、又は武力紛争の関する国際法に違反して本質的に無差別な兵器、投射物及び物質並びに戦争の方法を用いること。これは当該兵器、投射物、物質及び戦争方法が、包括的な禁止の対象とされ、第121条及び第123条に掲げられた関連規定に従ってこの規定の改正による付属書に含まれることを条件とする。

(x x i) 
個人の尊厳に対する侵害、特に侮辱的で品位を傷つける取扱い

(x x ii)  強姦、性的奴隷、強制売いん、第7条2(f)に定義された強制妊娠、強制不妊、又はジュネーヴ諸条約の重大な違反行為を構成するその他の形態の性的暴力を行うこと。

(x x iii)  若干の地点、地域又は軍隊を軍事行動から免れさせるために、文民又は他の被保護者の所在を利用すること。

(x x iv)  国際法に従ってジュネーヴ諸条約の特殊標章を用いている建物、資材、衛生部隊及び衛生車両並びに要員を故意に狙った攻撃

(x x v)  生存に不可欠なものを奪取すること(ジュネーヴ諸条約に基づいて供給される救済品の供給を故意に妨害することを含む。)によって文民の餓死を戦争の方法として意図的に用いること。

(x x vi)  15歳未満の児童を自国軍隊に徴募し若しくは入隊させること、又は敵対行為に直接参加させるために利用すること。

(c) 国際的性質を有しない武力紛争の場合には、1949年8月12日のジュネーヴ四条約に共通の第3条の重大な違反、すなわち、敵対行為に直接参加していない者(武器を放棄した軍隊の構成員及び病気、負傷、抑留その他の事由により戦闘外に置かれたものを含む。)に対する次のいずれかの行為

(i)  生命及び身体に対する暴行、特に、あらゆる種類の殺人、傷害、虐待及び拷問

(ii)  個人の尊厳に対する侵害、特に、侮辱的で品位を傷つける取扱い

(iii)  人質をとること

(iv)  正規に構成された裁判所で一般に不可欠と認められる全ての裁判上の保障を与えるものの裁判によらない判決の言渡し及び刑の執行

(d)  2(c)の規定は、国際的性質を有しない武力紛争に適用され、暴動、単発的及び散発的な暴力行為又は他の類似の性質を有する行為のような、国内的騒擾及び緊張の事態には適用しない。

(e)  国際法の確立した枠内にある国際的な性質を有しない武力紛争に適用可能な法規及び慣例のその他の重大な違反、すなわち次のいずれかの行為

(i)  文民たる住民そのもの又は敵対行為に直接参加していない個々の文民を故意に狙った攻撃

(ii)  国際法に従ってジュネーヴ所条約の特殊標章を用いている建物、資材、衛生部隊及び衛生車両並びに要員を故意に狙った攻撃

(iii)  人道的支援又は国際連合憲章に基づく平和維持活動に携わる要員、施設、資材、装置若しくは車両(武力紛争に関する国際法に基づいて文民又は民用物に与えられる保護を受ける権利を有するものに限る。)を故意に狙った攻撃

(iv)  宗教、教育、芸術、学術若しくは慈善目的に供される建物、歴史上の記念建造物、病院及び傷病者の収容所(軍事目標ではないものに限る。)を故意に狙った攻撃

(v)  町又は地域を略奪すること(突撃によって攻撃した場合を含む。)

(vi)  強姦、性的奴隷、強制売いん、第7条2(f)に定義された強制妊娠、強制不妊、及びジュネーヴ4条約に共通の第3条の重大な違反を構成するその他の形態の性的暴力を行うこと。

(vii) 15歳未満の児童を軍隊若しくは集団に徴募し若しくは入隊させること、又は敵対行為に直接参加させるために利用すること。

(viii)  紛争に関する理由で文民たる住民の移動を命令すること(当該文民の安全又は軍事上のやむを得ない理由が必要とする場合を除く。)

(ix)  背信的に敵対する戦闘員を殺傷すること。

(x)  助命を許さないことを宣言すること。

(xi)  敵対する紛争当事者の権力内にある者を身体の切断のさらすこと、又は医学、歯学若しくは医療上の処置によって正当化されず、その者のためになる形で行われないもので、死亡をもたらし若しくは健康を著しく危うくする種類の医学的若しくは科学的実験にさらすこと。

(xii)  紛争の必要上やむを得ない場合を除き、敵の財産を破壊し又は押収すること。

(f) 2(e)の規定は、国際的性質を有しない武力紛争に適用し、暴動、単発的及び散発的な暴力行為並びに他の類似の性質を有する行為のような、国内的騒擾および緊張の事態には適用しない。2(e)の規定は、政府当局と組織的武装集団との間又はそれら集団間での長期化した武力紛争がある場合には、一国の領域内において生ずる武力紛争に適用する。

3 2(c)及び(e)のいずれの規定も、すべての正当な手段によって、自国に法と秩序を維持し若しくは再確立し、又は自国の国家的統一と領土保全を防衛する政府の責任の影響を与えるものではない。

第9条(犯罪の構成要件)

1 犯罪の構成要件は、第6条、第7条及び第8条の解釈及び適用に当たって、裁判所を補助する。犯罪の構成要件は、締約国会議の構成員の3分の2の多数によって採択される。

2 犯罪の構成要件の改正は、次の者が提案することができる。

(a) いずれかの締約国

(b) 裁判官の絶対多数

(c) 検察官

改正は、締約国会議の構成員の3分の2の多数によって採択される。

3 犯罪の構成要件及びその改正は、この規程と両立するものでなければならない。

第10条 

  第2部のいずれの規定も、この規程以外の目的のため、現存の又は将来生まれる国際法の規則をいかなる形でも制限し又は害するものと解釈されてはならない。

第11条(時間的管轄権)

1 裁判所は、この規程が発行した後に行われる犯罪についてのみ、管轄権を有する。

2 この規程の発効後に締約国になった国の場合には、当該国が第12条3に基づく宣言を行わない限り、裁判所は、当該国についてこの規程が発効した後に行われる犯罪についてのみ、管轄権を行使することができる。

第12条(管轄権行使のための前提条件)

1 この規程の締約国となる国は、それにより、第5条に規定された犯罪について裁判所の管轄権を受諾する。

2 第13条(a)又は(c)の場合には、裁判所は、次の1又は2以上の国がこの規定の締約国である場合又は3の規定に従って裁判所の管轄権を受諾した場合には、管轄権を行使することができる。

(a) 問題となっている行為が行われた領域国、又は犯罪が船舶若しくは航空機内において行われた場合にはその船舶若しくは航空機の登録国

(b) 被疑者の国籍国

3 2の規定に基づき規定非締約国の受諾が必要な場合には、当該国は書記に提出する宣言によって、問題となっている犯罪について裁判所による管轄権の行使を受諾することができる。受諾国は第9部に従い遅延なく又は例外なく裁判所に協力しなければならない。

第13条(管轄権の行使)

  裁判所は、次の場合には、この規程の諸規定に従って、第5条に規定された犯罪について管轄権を行使することができる。

(a) 1又は2以上の犯罪が行われたと思われる状態が、第14条に従って締約国により検察官に付託された場合

(b) 1又は2以上の犯罪が行われたと思われる状態が、国際連合憲章第7章の下で行動する安全保障理事会による検察官に付託された場合

(c) 検察官が、第15条に従って犯罪について捜査を開始した場合

第14条(締約国による状態の付託)

1 締約国は、裁判所の管轄に属する1又は2以上の犯罪が行われたと思われる状態を検察官に付託することができ、検察官に対し、1又は2以上の特定の者が当該犯罪の遂行について罪を問われるべきか否かを決定するために、当該状態を捜査するよう要請することができる。

2 可能な限り、付託は関連状況を特定し、当該状態を付託する国が入手可能な疎明文書を添付しなければならない。

第15条(検察官)

1 検察官は、裁判所の管轄に属する犯罪についての情報に基づき、職権により捜査を開始することができる。

2 検察官は、受領した情報の重大性を分析する。このために、検察官は、国、国際連合の機関、政府間機関、非政府機関、または検察官が適当と認めるその他の信頼できる情報源から追加的な情報を求めることができ、裁判所所在地において文書又は口頭の証言を受けることができる。

3 検察官は、捜査を進める合理的な理由があると判断する場合には、予審裁判部に対して、収集された疎明資料とともに、捜査の証人要請を提出する。被害者は、手続及び証拠に関する規則に従って、予審裁判部に対して陳述を行うことができる。

4 予審裁判部が、当該要請及び証拠資料を調査した上で、捜査を進める合理的な理由が存在し、かつ事件が裁判所の管轄に属すると思われると考える場合には、予審裁判部は、捜査の開始を承認する。但し、これは事件の管轄権及び許容性に関する裁判所による後の決定を害するものではない。

5 予審裁判部による捜査の承認の却下は、同一の状態に関する新たな事実又は証拠に基づき検察官が捜査の承認要請を後に提出することを妨げるものではない。

6 1及び2に規定された予備調査の後、検察官が、提出された情報は捜査のための合理的理由を構成しないと判断する場合には、検察官は当該情報の提供者にその旨を通知する。このことは、検察官が新たな事実及び証拠に照らして同一の状態に関して提出された追加的情報を検討することを妨げるものではない。

第16条(捜査又は訴追の延期)

  安全保障理事会が、国際連合憲章第七章の下で採択された決議において、裁判所に対して捜査又は訴追を開始し又は進めないように要請した場合には、一二ヶ月の間、この規程の下でいかなる捜査又は訴追も開始又は進めることはできない。当該要請は、同一条件の下で安全保障理事会によって更新されることができる。

第17条(受理許容性の問題)

  裁判所は、前文第10項及び第1条を考慮して、次の場合には事件を受理不許容と決定しなければならない。

(a) 当該事件が、当該事件について管轄権を有する国によって現に捜査又は訴追されている場合。但し、当該国が捜査又は訴追を真正に行う意図又は能力を欠く場合には、この限りではない。

(b) 当該事件が、当該事件について管轄権を有する国によって捜査され、当該国が関係者を訴追しないことを決定した場合。但し、この決定が、当該国の捜査又は訴追を真正に行う意図又は能力の欠如から生じたものである場合には、この限りではない。

(c) 関係者が告発の対象となっている行為について既に裁判を受けており、第20条3に基づき裁判所による裁判が許されない場合

(d) 事件が裁判所によるそれ以上の行動を正当化するに十分な重大性を有していない場合

2 特定の事件のおける意図の欠如を決定するために、裁判所は、国際法によって認められた適正手続の原則を考慮して次の1又は2以上の状況が適用可能なものとして存在するか否かを検討する。

(a) 第5条に規定された裁判所の管轄に属する犯罪について当該の者の刑事責任から守るために、手続がとられたか若しくはとられているか、又は国の決定が行われた場合

(b) その状況の下で当該の者を裁判にかける意図と矛盾する手続上の不当な遅延があった場合

(c) 手続が独立又は公正に行われなかったか又は行われていない場合であって、手続が、その状況の下で当該の者を裁判にかける意図と矛盾する方法で行われたか又は行われている場合

3 特定の事件における能力の欠如を決定するために、裁判所は、その国内的司法制度が完全に若しくは実質的に崩壊しているか又は利用できないために、当該国が被告人の身柄若しくは必要な証拠及び証言を確保できないか、又はそれ以外の理由で手続を実施することができないか否かを検討する。

第18条(受理許容性に関する予備決定)

1 第13条(a)に従って状態が裁判所に付託され、検察官が捜査を開始する合理的な理由があると決定した場合には、又は検察官が第13条(c)及び第15条に従って捜査を開始する場合には、検察官は、すべての締約国、及び入手可能な情報を考慮して当該犯罪について通常管轄権を行使する国に通知する。検察官は、秘密にこれらの国に通知することができ、また、人を保護し、証拠の破壊を防止し、又は人の逃亡を防止する必要があると検察官が信じる場合には、諸国に提供する情報の範囲を制限することができる。

2 国は、その通知を受領してから1ヶ月以内に、裁判所に対し、第5条に規定された犯罪を構成しうる犯罪行為であって関係国への通知において提供された情報に関連するものについて、自国民又は自国の管轄内にあるその他の者を捜査しているか又は捜査したことを通報することができる。その国の要請がある場合には、検察官は、それらの者の捜査をその国に委ねなければならない。但し、検察官の申請に基づいて予審裁判部が捜査を許可する旨決定する場合には、この限りではない。

3 検察官による国の捜査への委託は、委託日から六ヶ月後に、又は捜査を新世に行う意図若しくは能力の欠如に基づく状況の重大な変化があった場合にはいつでも、検察官による再検討が可能である。

4 当該国又は検察官は、予審裁判部の裁定を第82条2に従って上訴裁判部に上訴することができる。上訴は、迅速に審理することができる。

5 検察官が2に従って国に捜査を委ねた場合には、検察官は、当該国が捜査の進展状況及びその後の訴追について、検察官に定期的に報告することを要請することができる。締約国は、不当に遅延することなくその要請に答えなければならない。

6 予審裁判部による裁定が行われるまでの間、又は検察官が本条に基づいて捜査を委ねた場合はいつでも、検察官は、重要な証拠を得るための極めてまれな機会が存在する場合又はそのような証拠が後に入手できなくなる重大な危険が存在する場合には、証拠保全の目的で必要な捜査措置をとるために、例外的に予審裁判部の許可を求めることができる。

7 本条に基づく予審裁判部の裁定に異議を申し立てた国は、重大な追加的事実又は状況の重大な変化を理由として、第19条に基づき事件の受理許容性について異議を申し立てることができる。

第19条(裁判所の管轄又は事件の受理許容性に対する異議申立て)

1 裁判所は、提訴されたいかなる事件についても、裁判所が管轄権を有することを確認しなければならない。裁判所は、職権により第17条に従って事件の受理許容性について決定することができる。

2 第17条に規定された理由に基づく事件の許容性についての異議申立て又は裁判所の管轄権についての異議申立ては、次の者が行うことができる。

(a) 被告人又は第58条に基づいて逮捕状若しくは召喚状が発せられた者

(b) 事件について捜査若しくは訴追を行っており、又は行ったという理由で、当該事件について管轄権を有する国。

(c) 第12条に基づき管轄権の受諾が求められる国

3 検察官は、管轄権又は受理許容性の問題に関して、裁判所の裁定を求めることができる。管轄権又は受理許容性に関する手続においては、第13条に基づいて状態を付託した者並びに被害者も、裁判所に対して意見を提出することができる。

4 事件の受理許容性又は裁判所の管轄権については、2に規定されたいずれかの者又は国が、1回だけ異議を申立てることができる。異議申立ては、公判の開始前に又は公判の開始時に行わなければならない。例外的な場合には、裁判所は、異議申立てを1回以上又は公判の開始後に行うことを許可することができる。公判の開始時又は裁判所の許可を得てそれより後に行われる事件の受理許容性に対する異議申立ては、第17条1(c)に基づいてのみ行うことができる。

5 2(b)及び(c)に規定する国は、最も早い機会に異議申立てを行わなければならない。

6 起訴内容の確認前には、事件の受理許容性に対する異議申立て又は裁判所の管轄権に対する異議申立ては、予審裁判部に付託しなければならない。起訴内容の確認後には、これらの異議申立ては、第1審裁判部に付託しなければならない。管轄権又は受理許容性に関する決定は、第82条に従って上訴裁判部に上訴することができる。

7 異議申立てが2(b)又は(c)に規定する国によって行われた場合には、検察官は、裁判所が第17条に従って決定を下す時まで、捜査を中断しなければならない。

8 裁判所による裁定が下されるまでの間、検察官は、次の事項について裁判所の許可を求めることができる。

(a) 第18条6に規定する種類の必要な捜査措置をとること。

(b) 証人から供述若しくは証言をとること、又は異議申立てが行われる前に開始された証拠の収集若しくは調査を完了すること。及び

(c) 関係国と協力して、検察官が第58条に基づいて既に逮捕状を要請した者の逃亡を防止すること。

9 異議申立てが行われたことは、当該異議申立ての前に検察官が行った行為又は裁判所が発した命令若しくは令状の有効性に影響を及ぼすものではない。

10 裁判所が第17条に基づいて事件を受理不許容と決定した場合には、検察官は、第17条に基づいて以前に当該事件が受理不許容とされた理由を否定する新たな事実が発生したと十分に確信するときは、当該決定の再審の要請を提出することができる。

11 検察官が第17条に規定する事項を考慮して捜査を関係国に委ねた場合には、検察官は、当該国が手続きに関する情報を検察官に利用させるよう要請することができる。その情報は、当該国が要請するときは、秘密にしなければならない。検察官がその後に捜査を進めることを決定する場合には、検察官は、手続の委託が行われた国に通知しなければならない。

第20条(一事不再理)

1 この規程に定める場合を除き、何人も、その者が裁判によって既に有罪又は無罪とされた犯罪の基礎を構成した行為について裁判所において裁判されることはない。

2 何人も、裁判所によって既にその者が有罪又は無罪とされた第五条に規定された犯罪について、他の裁判所において裁判されることはない。

3 他の裁判所によって、第6条、第7条又は第8条に規定された行為について裁判されたいかなる者も、他の裁判所の手続が次に該当する場合を除き、同一の行為について裁判所によって裁判されることはない。

(a) その者を裁判所の管轄に属する犯罪についての刑事責任から守るためであった場合、又は

(b) 国際法によって認められた適性手続の規範に従って独立又は公正に行われなかった場合、及び当該状況の下で、当該の者を裁判にかける意図と矛盾する方法で行われた場合

第21条(適用法規)

1 裁判所は、次のものを適用する。

(a) 第1に、この規程、犯罪構成要件並びに手続及び証拠に関する規則

(b) 第2に、適当な場合には、適用可能な条約並びに国際法の原則及び規則(武力紛争に関する国際法の確立された原則を含む。)

(c) それがない場合には、世界の法制度の国内法(適当な場合には、当該犯罪に対して通常管轄権を行使する国の国内法を含む。)から裁判所によって抽出された法の一般原則。但し、これらの原則は、この規程、国際法並びに国際的に認められた規範及び基準と矛盾しないことを条件とする。

2 裁判所は、以前の判決において解釈された法の原則及び規則を適用することができる。

3 本条に従った法の解釈並びに適用は、国際的に認められた人権と両立しなければならず、かつ、第七条3に定義されたジェンダー、年齢、人種、皮膚の色、言語、宗教若しくは信仰、政治的若しくは他の意見、国民的、民族的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位のような理由に基づく不利な区別のないものでなければならない。


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