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犯罪人引渡しに関するモデル条約 採択 一九九〇年一二月四日 国際連合総会第四会期決議 四五/一一六

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 ・・・・・・国と・・・・・・国は、

 犯罪人引渡しに関する条約締結することにより、犯罪の規程における二カ国間の協力をいっそう実効のあ るものとすることを希望して、次のとおりに協定した。

第一条(引渡し義務)
 各締約国は、請求に基づきかつこの条約の規定に従って、引渡し犯罪の訴追のため又は引き渡し犯罪に関して刑の宣告もしくは執行のため請求国において指名手配されている者を当該他の締約国に引き渡すことに同意する。

第二条(引渡犯罪)

1 この条約の適用上、引き渡し犯罪とは、双方の締約国の法律により少なくとも[一年/二年〕の長期の拘禁刑その他の自由剥奪の刑又はより厳しい刑罰に処することとされている犯罪をいう。犯罪人引渡しの請求が、このような犯罪により拘禁刑その他の自由剥奪の刑を執行するために指名手配されている者に関して行われる場合には、犯罪人引渡しは、このような刑の服役期間が少なくとも〔四箇月/六箇月〕以上残っている場合にのみ行われる。

2 犯罪が双方の締約国の法律に従って、締約国の法律により処罰できる犯罪であるかどうかを決定する際には、次のことを問題にしてはならない。

(a) 双方の締約国の法律が、犯罪を構成する作為者若しくは不作為を同一の犯罪の範疇に含めているかどうか、又は、当該の犯罪を同一の用語で呼称しているかどうか。

(b) 双方の締約国の法律により当該の犯罪の構成要件が異なっているかどうか。請求国により提示された作為又は不作為の全体が考慮されなければならないことを了解する。

3 租税、関税、為替管理その他の歳入事項に関する法律に違反する犯罪よりあ る者の引渡しが求められている場合には、犯罪人引渡しは、被請求国の法律と同種の租税、関税若しくは為替管理に関する規制を行ってはいないことを理由として拒否することができない。

4 犯罪人引渡しの請求が数個の別個の犯罪を含み、そのそれぞれが双方の締約国の法律により処罰できるものであ るが、そのいくつかについてはこの条の1に定める他の条件が満たされない場合には、被請求国は、当該犯罪についても引渡しすることができる。ただし、引渡しを求められたものが少なくても一つの引渡し犯罪により引渡しされるべきことを条件とする。

第三条(義務的な拒否事由)

 犯罪人引渡しは、次のいずれかの事情があ る場合には行ってはらない。

(a) 引渡しが求められている犯罪が被請求国により政治的性質の犯罪とみなされる場合。

(b) 被請求国が、引渡しの請求が引渡しを求めらてられている者を人種、宗教、国籍、種族的出身、政治的意見。性若しくは、地位に基づいて迫害し若しくは処罰する目的で行われたか、又は、それらの理由により引渡しを求められた者の地位が損なわれる恐れがあ ると信じる実質的な理を有している場合

(c) 引渡しが求められている犯罪が軍法上の犯罪であ って、かつ通常の刑法上の犯罪にはならない場合

(d) 被請求国において、その者の引渡しが求められている犯罪についてその者に対する最終的な判決が下されている場合

(e) 引渡しを求められている者が、いずれかの締約国の法律に基づいて、いずれかの理由(時の経過又は恩赦を含む。)により訴追又は処罰を免れることになった場合

(f) 引渡しを求められている者が、請求国において、拷問又は残酷な、非人道的な若しくはっ品位を傷つける取り扱い又は刑罰を受けたか又は受ける場合、あ るいは当該の者が市民的及び政治的権利に関する国際規約の第一四条に定める刑事手続きの最低限度の保障を受けなかったか又は受けない場合

(g) 請求国の判決が欠席裁判において下され、有罪宣告を受けたものが心理の十分な通知を受けておらず又は自己の防御のため準備の機会を与えられず並びに事件を自らの出席の下で再審理される場合を与えられなかったか若しくは与えられない場合。

第四条(選択的な拒否自由)

 犯罪人引渡しは、次のいずれかの事情があ る場合には、拒否することができる。

(a) 引渡しを求められている者が、被請求国の国民であ る場合。この理由により引渡しが拒否される場合は、被請求国は、他方の国が要求する場合には、その者に対し引渡しが求めらている犯罪について適当な措置をとるために、権 限のある当局に事実を付託する。

(b) 被請求国の権 限のある当局が、引渡しが求められている犯罪についてその者に対する手続を開始しないか又は終了することが決定した場合

(c) 引渡しが求められた犯罪の訴追が、引渡しを求められた者に対して被請求国において継続している場合

(d) 引渡しが求められている犯罪が、請求国の法律により死刑を伴う場合。ただし、被請求国が死刑は科されない又は科されたとしても執行されないことを十分と考える保証を請求国が与える場合はこの限りではない。

(e) 引渡しが求められた犯罪が、一方の国の領域外で行われかつ被請求国の法律が同様の事情においてその領域外で行われたこのような犯罪に対して管轄権 を付与していない場合。

(f) 引渡しが求められた犯罪が、被請求国の法律により犯罪の全部又は一部が被請求国において行われたとみなされた場合。この理由により引渡しが拒否される場合は、その者に対し引渡しが求められている犯罪について適当な措置をとるために、権 限のある当局に事案を付託する。

(g) 引渡しを求められた者が、請求国において特別の又は臨時の法廷又は裁判所で刑を宣告されたか又は裁判を受け若しくは刑を宣告されることになる場合

(h) 被請求国が、犯罪の性質及び請求国の利益を考慮に入れても、事案の事情により、その者の引渡しが年齢、健康その他そのの者の個人的な事情に基づいて人道的な考慮と両立しないと考える場合。

第五条(通知の経路、必要な文書)

1 犯罪人引渡しの請求は、書面で行われる。請求を正当化文書及びその後の通知は、外交経路を通じて、司法省又は双方の締約国が指定する他の当局の間で直接に送付される。

2 犯罪人引渡しの請求には次のものを付す。

(a) すべての場合に、

(i) 引渡しを求める者についてのできる限り正確な記述、並びに、その者の身元、国籍及び所在を確認するための助けとなるその他の情報

(ii) 犯罪を定める法律の関係する規定の本文又は、必要な場合、犯罪に関連する法律についての掲載及び当該犯罪に対して科すことができる刑罰の記載

(b) 引渡しを求めれた者が罪に問われている場合には、裁判所その他の権 限のある司法当局の発したその者に対する逮捕状又は当該逮捕状の認定された写し、引渡しが求められた場合犯罪を構成する作為又は不作為の記述。

(c) 引渡しを求めらた者が犯罪につき有罪判決を受けている場合には、引渡しが求めらた犯罪の記載及び当該犯罪を構成する作為又は不作為、並びに判決の原告若しくは認証された写し又は有罪判決及び科された刑罰を記載した他の文書、刑罰が執行できる事実並びに刑罰に服する残余の期間

(d) 引渡しを求められた者が欠席したまま有罪判決を受けた場合には、この条の2(c)に定める文書に追加して、そのものが自己の防御を準備するため又は自己の出席の下で再審理されるために利用できる法的手段に関する記載

(e) 引渡しを求められた者が有罪判決を受けたがまだ刑罰を宣告されていない場合には、引渡しが求められている犯罪の記載及び当該犯罪を構成する作為又は不作為の記述、並びに、有罪判決について記載した文書及び刑罰を科す意図があ ることを確認する場合

3 犯罪人引渡しの請求を正当化するために提出される文書には、被請求国の言語又はその国が認める他の言語への翻訳を付す。

第六条(犯罪人引渡しの略式手続き)

 被請求国は、その国の法律により禁止されていない場合には、引渡しを求められた者が権 限のある当局の前で明示に同意することを条件として、仮拘禁の請求を受領した後に引渡しができる。

第七条(証明、認証)

この条約に別段の定めがあ る場合を除き、犯罪人引渡しの請求及びそれを正当化する文書並びにこの請求に応じて提供される文書その他の資料は、証明又は認証を必要としない。

第八条(追加情報)

 被請求国が犯罪人引渡しの請求を正当化するために提供された情報を十分でないと考える場合には、その国が指定する合理的期間内に追加情報を提供するよう要求することができる。

第九条(仮拘禁)

1 緊急の場合には、請求国は、犯罪人引渡しの請求を提出する以前に引渡しを求める者の仮拘禁を求めることができる。当該請求は、国際警察機構の便宜を通じて、郵便、電報その他の書面で記録に残る方法で送付される。

2 請求には、仮拘禁を請求する者の記載、犯罪人引渡しの請求が行われている旨の記述、その者の身を確保する権 限を与えるこの条約の第五条2に定める文書の一が存在すること、犯罪に対して科すことのできる若しくは既に科された刑罰(刑罰の残された復籍期間及び事案の事実の簡潔な記述を含む。)の記述、並びに知っている場合にはその者の所在の記述を含む。

3 被請求国は、国内法に基づいて請求に関する決定を行い並びにその決定に遅滞なく請求国に通知する。

4 この請求に基づいて拘禁された者は、この条約の第五条2に定められた関係文書により正当化される犯罪人引渡しの請求が受領されない場合には、拘禁の開始日から[四〇]日の経過により釈放される。この項は、[四〇]日の経過以前にその者を条件付で釈放する可能性を排除するものではない。

5 この条4に基づく仮拘禁者の釈放は、その後に請求及びそれを正当化する文書が受領された場合に引渡しを求められた者を引き渡す目的で再拘禁し及び手続きを開始することを妨げるものではない。

第一〇条(請求に関する決定)

1 被請求国は、犯罪人引渡しの請求をその国の法律の定める手続きにしたがって処理し並びにその決定を請求国に速やかに通知する。

2 請求の全部又は一部の拒否があ る場合には、その理由を通知する。

第一一条(身柄の引渡し)

1 引渡しが認められる旨の通知があ った場合には、双方の締約国は、不当な遅滞なく、引渡しを求められた者の身柄の引渡しのために取決めを行うものとし、並びに、被請求国は、その者を身柄引き渡しのために拘禁しておく期間を請求国に通知する。

2 引き渡される者は、被請求国が指定する場合合理的な期間内に被請求国の領域から出国させるものとし、並びに、その者を釈放し及びその者を同一の犯罪について引き渡すことを拒否することができる。

3 締約国が自らの支配できない事情により引渡される者の身柄の引渡し又は出国を行うことができない場合には、他の締約国にその旨を通知する。双方の締約国は、相互間で身柄引渡しのために新たな期日を決定し並びにこの条の2の規定を適用する。

第一二条(身柄引渡しの延期又は条件付身柄引渡し)

1 被請求国は、犯罪人引渡しの請求について決定を行った後、引き渡される者に対する手続きを進行させるため又は、その者が、既に有罪判決を受けている場合には、引渡しが求められた犯罪以外の犯罪に対して科された刑罰の執行のためにその者の身柄の引渡しを延期することができる。この場合には、被請求国はその旨を請求国に通報する。

2 被請求国は、身柄の引渡しを延期する代わりに、双方の締約国の間で決定される条件に基づいて、引渡される者の身柄を請求国に一時的に引き渡すことができる。

第一三条(財産の引渡し)

1 被請求国の法律が認める限度において及び適正に尊重されるべき第三者の権 利を条件として、犯罪の結果取得され又は証拠として必要とされることのある被請求国内で発見されたすべての財産は、請求国が要求する場合には、犯罪人引渡しが認められる場合には引き渡されるものとする。

2 当該の財産は、請求国が要求されていない場合には、合意された犯罪人引渡しが実施できない場合にも請求国に引き渡すことができる。

3 当該財産が被請求国において押収又は没収の対象となる場合には、被請求国はその財産を自国に留置し又は一時的に引き渡すことができる。

4 被請求国の法律又は第三者の権 利の保護が必要する場合には、引き渡された財産は、被請求国が要求する場合には手続きの終了後無料で請求国に返還される。

第一四条(特定性の原則)

1 この条約に基づいて引き渡された者は、引渡しの前に行われた次の犯罪以外の犯罪により請求国の領域で手続きを行い、刑を宣告し、拘禁し、第三国に再引渡しを行い又は身体の自由に対するその他の制限を課してはならない。

(a) それにつき犯罪人引渡しが行われた犯罪。

(b) 被請求国が同意したその他の犯罪。同意は、同意を求められた犯罪それ自体がこの条約に基づいて犯罪人引渡しに服する場合には与えられる。

2 この条に基づく被請求国の同意の請求には、この条約の第五条2に定める文書及び当該犯罪に関して引き渡される者が行った陳述の法的な記録に付すものとする。

3 この条の1は、引き渡される者が請求国を去る機会を有しかつその者の引渡し犯罪に関する最終的な釈放から[三〇/四五]日以内に請求国を去らなかった場合又はその者が請求国の領域を去った後自発的に戻った場合は適用されない。

第一五条(通過)

1 引き渡される者が第三国から他方の締約国の領域を通過して一方の締約国に引き渡される場合には、その者の引渡しを受ける締約国は、他方の締約国に対してその者がその領域を通過する許可を求めなければならない。この規定は、空路による輸送が行われかつ他方の締約国への着陸が予定されていない場合には適用されない。

2 関連する情報を掲載した当該の請求を受領した場合、請求を受けた国、この請求をその国の法律の定める手続きに基づいて処理する。請求を受けた国は、当該国の本質的利益がそれにより損なわれる場合を除き、当該の請求を速やかに認める。

3 通貨国は、通貨中移送者の拘束を可能とする法律の規定が存在することを確保する。

4 予定外の着陸の場合には、通過の許可を求められた締約国は、護送官の要請に基づいて、この条の1間に基づいて通過の請求が受領されるまで、[四八時間]移送者を拘束することができる。

第一六条(競合する請求)

 締約国が同一の者につき他の締約国及び第三国から犯罪人引渡し請求を受領した場合には、当該締約国は、裁量により、これらの国のいずれかにその者を引き渡すかを決定する。

第一七条(費用)

1 被請求国は、犯罪人引渡しの請求から生ずるその国の管轄権 内の手続きの費用を負担する。

2 被請求国は、また、財産の押収及び引渡し又は引渡しを求められている者の逮捕及び拘禁に関連して領域内で要した費用を負担する。

3 請求国は、被請求国の領域からその者を輸送するために要した費用(通過の経費を含む)を負担する。

第一八条(最終条項)



出典 「ベーシック条約集」 第2版 東信堂


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