University of Minnesota Human Rights Center

アパルトヘイト犯罪の抑圧及び処罰に関する国際条約(抄)(アパルトヘイト条約)

 

 

 

 

 

採択 一九七三年一一月三〇日

国際連合総会第二八回会期三〇六八(XVIII)附属書

日本国 効力発生 一九七六年七月一八日

 

 

 

この条約の締約国は、

すべての国際連合加盟国が、人種、性、言語又は宗教による差別のないすべての者のための人権及び基本的自由の普遍的な尊重及び遵守を達成するために、国際連合と協力して共同及び個別の行動をとることを誓約した国際連合憲章の規定を想起し、

世界人権宣言が、すべての人間は生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳及び権利について平等であること並びに、すべての者が人種、皮膚の色、又は国民的出身などのいかなる種類の差別もなしに同宣言に定められたすべての権利及び自由を享有することができることを宣明していることを考慮し、

植民地諸国、諸人民に対する独立付与に関する宣言の中で、総会が、解放の進展は抗し難くかつ覆すことのできないものであること、また、人間の尊厳、進歩及び正義のために、植民地主義並びにそれと結びついた隔離及び差別のすべての慣行を終わらせなければならないと述べていることを考慮し、

あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約に従って、諸国が特に人権隔離及びアパルトヘイトを非難し、自国の管轄下にある地域においてこの種のすべての慣行を防止し、禁止し及び根絶することを約束していることに注目し、

集団殺害犯罪の防止及び処罰に関する条約において、アパルトヘイト行為とみなし得る若干の行為が国際法上の犯罪を構成することに注目し、

戦争犯罪及び人道に対する犯罪への時効の不適用に関する条約において、「アパルトヘイト政策から生ずる非人道的行為」が人道に対する犯罪とみなされていることに注目し、

国際連合総会が、アパルトヘイトの政策及び慣行を人道に対する犯罪として非難する多くの決議を採択したことに注目し、

安全保障理事会が、アパルトヘイト並びにその間断のない強化及び拡大が国際の平和及び安全を著しく妨げかつ脅かすことを強調したことに注目し、

アパルトヘイト犯罪の抑圧及び処罰に関する国際条約が、アパルトヘイト犯罪の抑圧及び処罰のために国際的及び国内的な段階で一層効果的な措置をとることを可能にするであろうと確信して、

次のとおり協定した。

 

第一条 国際犯罪

1 この条約の締約国は、アパルトヘイトが人道に対する犯罪であること、及び、この条約の第二条に規定するアパルトヘイトの政策及び慣行から生ずる非人道的行為並びに人種隔離及び差別の類似の政策及び慣行が国際法の諸原則、特に国際連合憲章の目的及び原則を侵害しかつ国際の平和及び安全に対する重大な脅威を構成する犯罪であることを宣言する。

2 この条約の締約国は、アパルトヘイト犯罪を犯す団体、機関及び個人を犯罪人であると宣言する。

 

第二条 定義

 この条約の適用上、「アパルトヘイト犯罪」(南部アフリカにおいて行われている人種隔離及び差別の類似の政策及び慣行を含む。)とは、一つの人種的集団が他の人種的集団に対する支配を確立し及び維持し並びに体系的に他の人種的集団を圧迫する目的で行う次の非人道的行為をいう。

(a) 人種的集団の構成員に対して、次の方法により生命についての権利及び身体の自由を否認すること。

     (i) 人種的集団の構成員を殺害すること。

(ii) 人種的集団の構成員に重大な身体的又は精神的危害を加えること、その自由又は尊厳を侵害すること、又は拷問若しくは残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰に服させること。

     (iii)人種的集団の構成員を恣意的に逮捕し及び違法に投獄すること。

(b) 人種的集団にその全部又は一部の物理的破壊を生じさせることを意図した生活条件を故意に課すること。

(c) 人種的集団が国の政治的、社会的、経済的及び文化的生活に参加するのを妨げることを意図した立法上の措置その他の措置をとること、並びに、特に人種的集団の構成員に基本的な人権及び自由(労働の権利、労働組合を結成する権利、教育についての権利、自国を去り自国に戻る権利、国籍を得る権利、移動及び居住の自由についての権利、意見及び表現の自由についての権利、並びに平和的集会及び結社の自由についての権利を含む。)を否認することによって、そのような集団の完全な発展を妨げる条件を故意に創出すること。

(d) 人種的集団の構成員のために別個の特別区及びゲットーを創出し、種々の人種的集団構成員の間の婚姻を禁止し、人種的集団又はその構成員に属する土地財産を没収することにより、住民を人種的血統に従って分割することを意図した措置(立法措置を含む。)をとること。

(e) 特に、強制労働に服させることにより、人種的集団の構成員の労働を搾取すること。

(f) アパルトヘイトに反対していることを理由に、基本的な権利及び自由を奪うことにより、団体及び個人を迫害すること。

 

第三条 国際刑事責任

国際刑事責任は、動機のいかんを問わず、個人、団体及び機関の構成員並びに国の代表(行為が行われる国の領域に居住しているか他の国に居住しているかを問わない。)が次の行為を行うときは、それらの者に適用する。

(a) この条約の第二条に規定する行為を犯し、犯行に参加し、犯行を直接に扇動し又は犯行を共謀すること。

(b) アパルトヘイト犯罪の実行を直接に教唆し、奨励し又は協力すること。

 

第四条 締約国の義務

この条約の締約国は、次のことを約束する。

(a) アパルトヘイト犯罪及び類似の隔離主義的政策又はその現象の奨励を制圧し並びに防止するために必要な立法上その他の措置をとり、また、その犯罪を犯した者を処罰すること。

(b) この条約の第二条に規定する行為について責任を有し又は起訴された者を、その行為が行われた国の領域に居住するか、その国若しくは他の国の国民であるか又は無国籍者であるかを問わず、自国の管轄権に従って、訴追し、裁判にかけ及び処罰するため立法上、司法上及び行政上の措置をとること。

 

第五条 管轄裁判所

この条約の第二条に掲げる行為について罪に問われている者は、被告人に対して管轄権を有する締約国の権限のある裁判所により、又は国際刑事裁判所の管轄権を受諾する締約国に関しては管轄権を有する国際刑事裁判所により裁判を受ける。

 

第六条 国際連合への協力

この条約の締約国は、アパルトヘイト犯罪の防止、鎮圧及び処罰を目的とする安全保障理事会の決定を国際連合憲章に従って受諾しかつ実施し、また、この条約の目的を達成するために国際連合の他の権限のある機関が採択する決定の実施に際して協力することを約束する。

 

第七条 定期的報告

1 この条約の締約国は、この条約の実施のためにとった立法上、司法上、行政上、その他の措置に関する定期的報告を、第九条に基づいて設置される部会へ提出することを約束する。

2 報告の写しは、国際連合事務総長を通じてアパルトヘイト特別委員会へ送付する。

 

第八条 国際連合への行動要請

この条約のいずれの締約国も、アパルトヘイト犯罪の防止及び抑圧のために適当と考える国際連合憲章に基づく行動をとるよう国際連合の制限のある機関に要請することができる。

 

第九条 部会の設置

1 国連人権委員会(以下「人権委員会」という。)の議長は、第七条の規定により締約国が提出する報告を審議するために、人権委員会の委員でこの条約の締約国の代表である三名の者から成る部会を指名する。

2 人権委員会の委員のなかにこの条約の締約国の代表がいない場合又はそのような代表が三名より少ない場合には、この条約の締約国の代表が人権委員会に選出される時まで、本条1の規定により設置される部会の作業に参加するために、国際連合事務総長は、すべての締約国と協議した後、人権委員会の委員でない締約国の代表を指名する。

3 部会は、第七条の規定により提出される報告を検討するために、人権委員会の会期の開催の前又は閉会の後に五日を越えない期間会合することができる。

 

第一〇条 国連人権委員会への授権

1 この条約の締約国は、人権委員会に次のことを授権する。

  (a) あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約の第一五条に基づいて請願の写しを送付する際は、この条約の第二条に掲げる行為に関する苦情に注意を払うよう国際連合の諸機関に要請すること。

  (b) 国際連合の権限のある機関からの報告及びこの条約の締約国からの定期的報告に基づいて、この条約の第二条に掲げる犯罪について責任があると申立てられている個人、団体、機関及び国の代表の名簿、並びにこの条約の締約国により法的手続がとられているものの名簿を作成すること。

  (c) 信託統治地域及び非自治地域並びに一九六〇年一二月一四日の総会決議一五一四(XV)が適用されるその他のすべての地域の施政に責任を負う当局が、この条約の第二条に基づく犯罪について責任を負うと申立てられている個人でその領域的及び行政的管轄の下にあるものについてとる措置に関する情報を、権限のある国際連合機関に要請すること。

2 総会決議一五一四(XV)に含まれる植民地諸国、諸人民に対する独立付与に関する宣言の目的が達成されるまでの間、この条約の規定は、他の国際文書又は国際連合及びその専門機関によって、前記の人民に付与された請願の権利を何ら制限するものではない。

 

第一一条 犯罪人引渡し

1 この条約の第二条に掲げる行為は、犯罪人引渡しのためには政治的犯罪とはみなされない。

2 この条約の締約国は、その場合には、自国の立法及び現行の条約に従って引渡しに応ずることを約束する。

 

第一二条 紛争の解決 

この条約の解釈、適用又は実施から生ずる締約国間の紛争で交渉によって解決されないものは、紛争当事国の要請により、国際司法裁判所に付託する。ただし、紛争当事国が他の解決方法につき合意する場合は、この限りでない。

 

第一三条 署名

この条約は、すべての国による署名のために開放しておく。この条約の効力発生前に署名しない国は、加入することができる。

 

第十四条 批准、加入

1 この条約は、批准されなければならない。批准書は、国際連合事務総長に寄託する。

2 加入は、加入書を国際連合事務総長に寄託することによって行う。

 

第十五条 効力発生

VI5第二七条と同じ。

 

第一六条 廃棄

V5第二一条と同じ

 

第一七条 改正

V5第二三条と同じ。

 

第一八条 国際連合事務総長による通報

V5第二四条参照。

 

第一九条 正文

V5第二五条参照。

 

出典 東信堂 「国際人権条約・宣言集 第三版」より抜粋・編集

 

 

 

 

 

 

 

 


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